おかん塾で育てたいのは、子どもの「自己コントロール力」です。
つまり、誰かに言われたから動くのではなく、自分で自分を整え、前へ進める人に育つこと。その力さえ育てば、勉強にしても、友人関係にしても、将来の仕事にしても、主体的に選び、乗り越えていける大人になるはずです。
親であれば誰しも、子どもに “健全な前向きさ” を持ってほしいと願います。ここで言う前向きさとは、明るさや楽観だけの薄っぺらいものではありません。
自分の内側から静かに湧き上がってくる闘志、優しさ、思いやり、そして「やってみよう」と踏み出す力のことです。
そんな前向きさは、外側から押しつけて得られるものではありません。
「〇〇したい!」と思える心の温度は、本人の内側からしか生まれないからです。
内側からスイッチが入る瞬間
勉強でもスポーツでも仕事でも、「やらされている時」と「自分がやりたい時」では、結果はまったく違います。
自分の中に火がついたとき、人は驚くほどの馬力を発揮します。
私にも、そんな経験が一度だけありました。
中学2年の理科のテスト。返却のとき、友達が私の点数をそっと覗き込み、静かに席へ戻っていきました。
その目にあったのは、“ライバルを見るまなざし”。「え?そんなふうに見てくれてたんだ」――驚きと、ちょっとした誇らしさが同時に湧きました。
その瞬間、胸の奥からムクムクと闘志が湧いたのです。気づけば、机に向かっている時間があっという間。自分でも信じられないくらいの集中力でした。
結果はもちろん高得点。
ただ、残念ながらこの“本気モード”は一度きりでした。
なぜか?
あの時のやる気は、彼女のおかげで「自尊心がくすぐられた」から。つまり、内側から静かに燃え上がった“本物の動機”ではなく、“他者評価に反応した一時的な燃え”だったのです。
「評価」は麻薬。依存した瞬間、心は縛られる
実は私は、褒められたことで動けなくなった経験が何度もあります。
絵が得意でポスターをよく描いていたのですが、先生に強く褒められた瞬間、筆が重くなりました。「次も上手く描かなきゃ…」というプレッシャーで、まったく描けなくなってしまったのです。
評価は、時に麻薬のように快感です。もらった瞬間は嬉しい。でも、また欲しくなる。
そしていつのまにか“評価されるための行動”に変わっていき、自分の内側から湧く「内的やる気」が押しつぶされていってしまいます。
もし褒められ続けた結果、自分発のやる気が育たず、
「褒められないと動けない子」
「他人の目が気になって仕方ない子」
になっているとしたら……。
それは、子どもの力を奪っていることになります。
自己コントロールできる子を育てるために、親がめざすこと
誰だって、自分の行動は自分で決めたいのです。自分で決めるから、ぶれずに行動できる。自分で決めるから、実力が出る。
そして、自分で決めた行動からこそ、成長が生まれます。
すべての子どもは、本来「やりたい気持ち」を持っています。
ただ、その芽が「周りの評価」や「親の不安」で押しつぶされ、見えなくなっていることが多いだけ。
だからこそ、親がやるべきことは、子ども自身の“やりたい気持ち”に火がつきやすい環境をつくること。
これは、場のつくり方であり、関わり方の技術です。
感覚ではなく、知識と方法に基づいた子育てが必要になります。
子どもが「自分に向き合える場」をつくる
子どもは人生の中で、たくさんの困難に出会います。
親はつい、助けてあげたくなります。でも、それでは子どもの力にはなりませんよね。
頭ではわかっていても、目の前の我が子を見ると、どうしても手を出したくなる。それが親というものです。
親業を学んで初めて、私は“違う世界”があることを知りました。
子どもが出会う困難を「成長の機会」に変えるための方法です。
ポイントは、この2つ。
① 子どもが自分のモヤモヤと向き合える援助をする
② 親自身が不安に飲まれず、冷静に見守れる場をつくる
この2つができると、子どもは“自分の問題を自分で見つめ、自分で解決しようとする自立の力”を確実に伸ばしていきます。
この2つを、曖昧でなく具体的に、家庭内で実践していきたいのです。
原理原則を知れば、親は迷わない
子育ては地図のない山登りのようです。
どこにチューリップの球根が埋まっているのか分からないまま歩けば、知らずに踏んでしまうこともあります。
でも、場所がわかっていれば、踏まないように気をつけられる。万が一踏んでしまっても、どう手当てすべきか分かります。
原理原則を知るとは、まさに「地図」を手にすることでした。
「地図」を得てからの私は、
の理由が腑に落ち、関係が悪くなりかけても、すぐに軌道修正できました。
何より、「地図」は親の不安を静かに消してくれます。不安が小さくなると、子育ては驚くほど楽になります。
子どもを“自己コントロールできる人”に育てるには、親こそ、知識と方法を学び続ける力が必要なのだと感じています。